日高縦走

日高山脈は北海道の背骨を形成し、南北約150kmにも渡る。最高地点は百名山でもある幌尻岳で2052M、頂上からの峻険なる稜線は襟裳岬まで達する。ヒグマをはじめとした多数の野生生物、ヒダカゲンゲ、ヒダカソウなどの高山植物、日本有数のカール地形、と見るべきものは非常に多い。一方、日高山脈はアプローチが非常に不便であり、多くの場合林道終点からピークまでの登山道しか存在しない。今回は大学以来の友人1名と日高山脈の背骨を縦走する計画を立てた。稜線

1.登山計画、アプローチ〜芽室岳
8/1 快晴
登山計画は日高北部の芽室岳〜戸蔦別岳〜幌尻岳と縦走の予定。しかし芽室岳〜戸蔦別岳までの夏期登山記録は見あたらない。この時代、登れば誰かが記録をウェブ上に記すはずである。にもかかわらず芽室〜戸蔦別間は道も記録もなく、稜線のみが地図上に存在する。この穴場、行かずばなるまい。若干不安になりながらも5泊の予定で登山計画を立てた。
大阪〜千歳まで飛行機。新千歳空港で友人と出会い、JRで十勝清水を目指す。山とは直接の関係があるものではないが、南千歳駅遠方の戦闘機発着訓練の爆音に驚かされた。
十勝清水の駅で入山祝いをやり、タクシーに乗り込んだ。十勝清水の駅から芽室岳の登山口までは約5000円。途中からは未舗装であるが、非常によく整備されている。この日は登山口の小屋で宿泊。この小屋も立派であった。
8/2 快晴
ついに登山初日。朝靄の立ちこめる中を外に出る。圧倒的な植生の森の尾根をほぼ性格にたどりながら登っていく厳しいコースだ。三歩歩くごとにエゾアカガエルが飛びはね、下草を揺らす。時折大きく樹を揺らすのは鳥のたぐい。残念ながら名前はわからない。さすがに30kgオーバーのザックが体に応える。普段ならばコースタイムの半分で歩くことができるのだが今回はコースタイム通りも厳しい状況だ。稜線に出るのに3時間。休憩を二度も取ってしまった。稜線までは時折展望も楽しめるが森林限界は稜線一歩手前であり、晴れると非常に暑い。稜線から芽室岳山頂までは10分。ここの展望は非常に良く、日高の雄大すぎる山容がどっしりと目に飛び込んでくる。どこまでも続く原生林と、ハイマツに覆われた稜線に目を奪われ、一度こける。
雲海芽室西峰










これから歩く予定の尾根を目でたどってのんびりするひととき。日高稜線


さて、いざヤブへ。靴ひも、気合い、全て完璧だ……1時間で撤退を決定。これでも数多のヤブを超えた身である。蒜山から大山、至仏から平ヶ岳とヤブを漕いできたつもりだった。






ごめんなさい。北海道のヤブは最強でした。
あまりにも屈強なハイマツの前にあえなく撃沈。言い訳をすると
1.荷物が重すぎる
2.突入しても出る頃には夏期休暇をオーバーするかも
3.っていうかハイマツなら這えよ。立たないで
結局この日は芽室岳のピストンに終わった。敗走は背中の荷物が応える。登山口に降りるも車も何もなく、十勝清水まで歩くはめに。林道を5kmほど歩き、放牧地帯を延々と歩く。熊除け鈴に反応した牛が後ろをついてきた。いい加減疲れた頃、人に声をかけられる。なんと夕食をいただき、風呂に連れて行ってもらい結局は十勝清水の駅で宿泊。やけ酒が似合う、北の夏の夜。

2.再挑戦 伏美岳〜幌尻岳の肩
8/3 快晴
気を取り直して伏美岳〜戸蔦別岳〜幌尻岳を縦走することにする。JRで芽室駅へ。そこからタクシー、約8000円。こちらも林道は未舗装ではあるが整備されており、立派である。更に林道終点の避難小屋が綺麗。北海道の山は車で行く分にはアプローチが便利である。昨日までの疲れが残っており、ペースが上がらない。しかも暑い。暑すぎる。約4時間で伏美岳山頂。疲れと重荷は人のペースを大きく狂わせる。展望は最高。伏美からピパイロを望む
大雪山系こそ見えなかったが、幌尻岳、芽室岳まで見える最高の展望であった。荷物を持っていなければ比較的容易に登ることのできる、日高山脈の山であろう。頂上で一服の後、ピパイロ岳手前のテント場に向かう。縦走路は歩く人が少ないせいか、半ヤブ状態。脛にダメージを受け続けることを覚悟しなくてはいけないだろう。更に直登が連続する道であるため、速度の出ない厳しい縦走路である。ツガザクラ
一方でツガザクラ類をはじめとした多くの高山植物が美しい。また、森林自体も植生が豊かであり、精神的に余裕があればかなり楽しく歩くことができるであろう。この日は予定テント場に泊。エアリアに標記されている水であるが、期待はしない方がよい。水場へ下る道があり、100Mほど下ってみたものの、何も見ることができなかった。


8/4 曇り後雨
朝起きるとガスの中。とはいえ、一部に青空も見ることができるような天気であった。とりあえずヒグマに襲われることもなく、この日を迎えたことに安心し、早速歩き始める。縦走路の状態は昨日と同じ。稜線を完璧にトレースし、ポコをトラバースしようなどとは毛頭考えもしない、男の中の男のような道である。森林限界を超えようとも屈強な立ちハイマツに進む道を阻まれる。チングルマ

雨も降っていないのに靴の中は水浸し。いや、むしろ全身水浸しであった。朝一発目の登りで一気に高度を稼ぎ、一瞬でピパイロ岳山頂へ到着。テント場からは1時間ですらかからない。ガスで展望は皆無であったが、ピパイロ岳周辺は蛇紋岩地帯。ヒダカゲンゲをはじめ、多くの種類の高山植物がいくらも咲いている。ヒダカゲンゲ

多少のアップダウンはあるものの稜線上は快適なルートである。時折登山道を覆い尽くすハイマツと岩稜地帯がよい刺激になり、飽きることなく歩き続ける。





ガスの中の展望岩稜地帯











歩くに従い、どんどんガスが濃くなり、北戸蔦別岳のあたりでは眼鏡が一瞬で曇るほどであった。せっかくの七ツ沼カールも展望なく、ほとんど見えず。戸蔦別岳を超えた時点で既に歩くことに嫌気がさしていたが、実は本日の予定、テント場がない。テントを張れそうな場所を延々と探し、歩き続ける内にガスは雨交じりの突風へと変化した。結局、幌尻岳の肩を超えてしばらく歩いた地点で泊。テントが傾き、下の岩が腰に当たる、つらい幕営となった。突風と雨は止むこともなく、三時間に一度は起こされつづけた。それでも寝ていれば疲れはとれる。人間、寝ようと思えばどこでだって眠れるものだ。

3.幌尻岳〜下山、札幌
8/5 快晴
午前4時。突然目が覚める。テントを通した外は薄暗い。今日もガスの中を覚悟する。テントの出口を開け。開けた世界に言葉を失う。夜が朝を迎える
山での朝なんて何度も迎えた。美しい日の出も、夕焼けも、空の色はいくらでも知っているつもりだった。それでも。この日の朝の景色はこれまでの何よりも美しく、独特で。






夜の終わり朝日の中の稜線チシマツガザクラ
体力の回復したこの日、わずかな時間で日高山脈の最高峰、百名山、幌尻岳へと到着。毎度のことであるが、風景を言葉にすることはできない。どうぞ写真をごらんあれ。






幌尻岳山頂カール

さて、下山。頂上に名残を惜しみつつもカール上を歩き続ける。ヒグマを探すが存在もせず、やがて森林限界から樹林地帯に入り、延々と歩き続けた。北カール幌尻山荘から林道終点までは実質上の川歩き。コースタイムを半分に縮める勢いで歩いた。これだけ人が入るも、日高の原始的な沢の姿に満足を覚える。
林道終点よりゲートまで1時間。下界でも通常、人はこの速度で歩くまい。途中で出会った人の車に乗せてもらい、平取温泉へと連れて行ってもらった。
この日は札幌で泊。夜は打ち上げ。偶然にもすすきの祭で混雑する街中で定番ジンギスカンだった。勢いこんで食べようとしたものの、あまりの疲れに早めの就寝。

4.小樽、そして帰路
8/6快晴
札幌の友人に連れて行ってもらって小樽を観光。北海道にしては異様に暑い日であった。海と山が迫った箱庭のような街、小樽。小規模な神戸のような部分もありつつ、北海道らしさもありつつ。夏影の似合いそうな風景である。
夜は友人、その彼女と飲み会。学生時代のような飲み会であった。
8/7快晴
17:40の飛行機で帰宅。長い、長い旅行であった。


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